鉱物を愛好する者の楽しみの一つに、標本を引き出しの奥から取り出し、採集した時を思い浮かべつつ、ためすがえす標本をひっくり返しながら眺めるという行為がある。時には、以前には気が付かなかった良結晶を見出したり、新たな鉱物の特徴に気付いたりするなど思わぬ発見があり、鉱物を知る上では大変貴重な時間である。
この標本も、引き出しの奥の方から取り出してきたもので、「イットリア石の風化物が興味深い」と、メモが付いており、一度は注目した標本であったらしい。今回、改めて観察しなおすとともに、鉱物の同定のために分析を依頼した。
その結果、水晶山では2つ目のカンポーグ石となった次第である。
一部を拡大すると、写真のように板状の結晶が密生しており、一見、白雲母の集合したものに見える。しかし、このような風化物の部分に白雲母があるわけがないし、光沢も異なる。絹状というよりは光沢が鈍く、石膏に近い。カンポーグ石の同定には、この光沢が鍵となりそうである。
このようなイットリア石などの鉱物の風化物には、意外に高い割合でカンポーグ石が形成されている可能性がでてきた。しかし、採取時には、新鮮なイットリア石のほうに目が奪われ、風化してトロゴム石化した部分は捨てる場合が多かった。残念ながら、標本数はそう増えそうにない。