カイシク石は、1974年にカナダのペグマタイト鉱山で発見された鉱物で、日本では、2004年に発表された水晶山産が初産である。水晶山で当初発見された産状は、変質した鉄雲母の隙間や阿武隈石(イットリムブリソ石)の変質した部分に白色から無色の柱状結晶で、大きさは1mm以下であった。
たしかに、阿武隈石が長石等と接する境界部分には薄い白色の層が見られるが、柱状の結晶は見いだしていなかった。また、変質した鉄雲母は、魅力に欠ける存在で、これまであまり注意を注意をはらってこなかった。風化の進んだ鉄雲母の付く長石の部分からカンポーグ石を発見した後には、この考えも変わったが、いずれにしても、カイシク石らしい鉱物は、これまで確認できないでいたわけである。
こんな中、飯盛石やヒンガン石を産する「イットリウム褐簾石(allanite-(Y))や鉄礬柘榴石を主とする母岩」の空隙から、写真のカイシク石を発見することができた。頭のない柱状結晶で、透明〜半透明、淡い褐色をしている。大きさは、やはり小さく、長さ1mm程度である。写真からは、あまりはっきり確認できないものと思われるが、カイシク石が結晶している空隙は黄鉄鉱によるものであり、黄鉄鉱の微晶洞の中にカイシク石が結晶している形になっている。上記の母岩からも産出は少なく、手持ちの標本も2,3個程であり、いずれも黄鉄鉱の空隙に産したものである。
母岩の入手が困難であることから、今後も標本が増える可能性は少ないように思われ、貴重な標本と言える。