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「いわき市における地衣類の分布」 その2 地衣類の分布
このレポートは福島県立湯本高等学校地学部が調査・研究を行い、結果をまとめた
1988年発表「いわきのサクラが危ない」「感染率83%の危機」の一部を抜粋し、加筆・訂正したものです。
T.地衣類の調査
地衣類は目立たない存在であるが、学校や公園などの樹木、特に桜や梅の木の表面を見ると簡単に見つけることができる(都市部で、排気ガスが直接かかる木には見られないこともある)。
地衣類の種類は多く、野外で観察できるすべてを同定し分類することは難しい。特に郊外へ行くほど1本の木に付く種類と数は増し、同定を難しくする。
しかし、「葉状地衣類」かどうかは外見ですぐ判断できるし、慣れれば代表的な数種類の見分けは容易である。
「葉状地衣類」で最も代表的なものがウメノキゴケの仲間である。
ウメノキゴケをはじめとして、キウメノキゴケ、マツゲゴケ、ハクテンゴケ、ナミガタウメノキゴケは都市部から郊外にかけて観察され、同定も比較的容易である。
また、「固着地衣」も分布範囲は広く、かなり汚染のある地域でも観察することができる。しかし、外観からの同定が難しいことから、観察には向かない。
「樹状地衣」は、観察の結果、大気の清浄な郊外でしか見つかっておらず、かなり大気汚染に弱いと考えられる。
この地衣類が見つかれば、大気がきれいだと言えるが、都市部では観察できないことから、観察対象としてはやはり向かないだろう。
U.観察方法
厳密な観察には、何がその地域の大気汚染を(あるいは地衣類の生育状態を)代表するかを検討する必要がある。地衣類の観察では「被度」といって、幹の一定面積中に見られる種類・数・面積を観察するのが一般的である。
しかし、大まかな分布を把握するだけなら、大きさを測定するだけでよい。
1本の桜に注目し、最も大きいウメノキゴケ属葉状地衣類を探す。
この「最も大きい」という点で、地衣類の生育環境を代表させるのである。
野外では、この直径だけを測定すればいいから、簡単である。
大きさの測定が簡単な分、できる限りの同定や周辺の環境の観察に注意を向けたい。
実際の調査では、サクラの木に付着している地衣類の写真を撮影し、その種類と大きさを記録した。
木に着生している数種類の地衣類それぞれについて、その木で最も大きなものを探し、1×1cmのスケ−ル(画びょうを改良したもの)といっしょに撮影して、プリントした写真から実際の大きさを測定した。
地衣類はほぼ円形であるため、まずその長径(直径の最も長い所)を測定して半径を出し、面積を計算して求めた。
さらに、観察木5本の測定結果を平均して、その地点での地衣類の大きさとした。
V.調査結果
(調査期間:1998年1月〜5月)
サクラは学校や公園・お寺などに多いことから、これらの場所を中心にいわき市内・65ヶ所を回り調査した。
サクラが生育する地点の大気汚染状況を知るために行った地衣類の観察結果は、次のようになった。
第1図 ウメノキゴケの分布
第1図はウメノキゴケの空間分布である。
小名浜、勿来の工業地帯、小名浜から平にかけての鹿島街道沿い、国道6号線沿いではほとんど着生していない。
また、いわき市西部から北部の郊外では直径10cm(面積:78.5cm2)以上の大きなウメノキゴケが着生していることが分かる。
第2図 ハクテンゴケの分布
また、第2図はハクテンゴケの空間分布であるが、前述の傾向はより明確であり、また、大きなハクテンゴケが分布しない地域はウメノキゴケより内陸に入り込んでいることから、ハクテンゴケは大気汚染により敏感な地衣類であるといえるだろう。
これらの葉状地衣類の分布から、小名浜、勿来の工業地帯、小名浜から平にかけての鹿島街道沿い、国道6号線沿いでの大気汚染は、地衣類が生育できないほどひどい状況であることが推測される。
その他の分布図
キウメノキゴケの分布 ナミガタウメノキゴケの分布
葉状地衣類の平均分布 サクラの土壌pH分布