石の旅 第1回 エジプトの旅
写真1 カウラー王のピラミッドとスフィンクス
数年前、エジプトに行ってきた。もちろん観光が目的で、石を目当てに行ったわけではない。
しかし、見る遺跡、見る遺跡全てが石から作られている。
建築材料という観点から見れば東洋は「木の文化」、西洋は「石の文化」と言うが、これほどまでとは思わなかった。
特にピラミッドは壮観だ。なんたってピラミッドは他の多くの石造りの建築物と違って、中身まで石が詰まっている。
王の間や回廊などの空間があるものの、それはごく一部。ほとんどが石であるところがすごい。
写真1のカウラー王のピラミッドの最上部には白い石灰岩(化粧石)が残っているが、作られた当時は全面を覆っていたそうである。
つまり、ピラミッドは白く輝いていたのだ。
ピラミッドは石灰質の岩石からなる丘を土台にして、運んできた石を積み上げて作ってある。
人の身長ほどもある大きな岩石を(いかにナイル川を利用したといっても)ここまで運ぶのは、さぞかし大変だったろう。
そんなにまでして、ピラミッドにはどのような意味が込められているのだろうか。
王の墓という説が有力なのだろうが、王の間から王のミイラが見つかったことはないらしく、さらに謎は深まるばかりである。
一説によれば、ギザにある三大ピラミッド(クフ王、カウラー王、メンカウラー王のピラミッド)は、オリオン座の三ツ星を地上に
映した物なのだという。(「オリオン・ミステリー〜大ピラミッドと星信仰の謎〜」、日本放送協会発行を参照のこと)
古代エジプト人恐るべし!
写真2 石灰岩 化粧石の一部?
エジプト人恐るべし!を感じさせるのは、写真3のアブシンベル神殿もそうである。
「太陽の子」と呼ばれた、ラムセスU世が建てた大神殿ですが、何が恐るべしかって....この遺跡は、もともと此処にあったわけではなく、別の場所から移転してきたのだ。
ナイル川にアスワン・ハイ・ダムを造ることになったのだが、ちょうどアブシンベル神殿は沈んでしまう場所にあったのだ。
遺跡をブロック状に切り取り、高台に人工的に造った山(コンクリート製のドーム)に貼り付けていったのである。
そう言われれば、遺跡に切られた後が残っている。
でも、言われなければわからないほどに精巧に接合されている。
エジプト人恐るべし!
ルクソールは、かつて「テーベ」と呼ばれ、古代エジプトの首都であった。
このルクソールにはエジプト最大級の神殿カルナックがある。
写真4はアモン神で、羊の姿をした神である。
羊の角はぐるっと巻いた形をしており、「アンモナイト」の「アンモ」はこのアモン神の角に似ていることから付けられたという。
写真5 カルナック神殿・大列柱室の天井に描かれたヒエログリフ
写真5はカルナック神殿の中でも、最も有名な大列柱室の天井部分である。
天井のヒエログリフには「上下エジプトの王、ウセル・マアト・ラー、セテプ・エン・ラーよ、生きよ!」と石に刻まれている。
ウセル・マアト・ラー、セテプ・エン・ラーとは、どちらもラムセスU世のことである。
エジプトの遺跡にはある種のパワーを感じる。私がこれまでに訪れた遺跡には感じられなかったものだ。
そのパワーとは「文字」にある。遺跡の至る所に刻まれたヒエログリフ。これには圧倒される。
日本には「言霊」という言葉がある。言葉には「魂」が宿るという考え方である。
古代エジプト人が刻み込んだヒエログリフ、そこには当時の人間の魂を感じざろうえない。
写真6 トトメスT世のオベリスク
カルナック神殿で見るべき物の1つにオベリスクがある。
オベリスクは世界各地にあり、これらはエジプトから持ち出されたものである。
パリ(コンコルド広場)、ワシントンが有名だ。
オベリスクなど、遺跡の中でも重要な位置を占める遺物にはアスワンで採れる花崗岩が使用されている。
写真7はアスワンの石切場にある作りかけのオベリスクで、とにかくバカデカイ。
ヒビが入ったため放置されたのとことであるが、そんな石でも数千年経つとれっきとした遺跡である。
写真8は、石切場で拾ってきた花崗岩。カリ長石がピンクに色づいている。
写真7 アスワンの石切場(作りかけのオベリスクが放置されている。)
写真8 アスワンの花崗岩
1日時間を取って、じっくりと見学したいのがカイロの考古学博物館だ。
今回の旅行では半日しか時間が取れず、慌ただしく見学を終えたが、また行ってみたい。
博物館での一番の見物は、何と言っても「ツタンカーメン」(正確には、トゥトゥ・アンク・アメン。アメン神の生ける姿の意)
の遺物である。
写真9が黄金のマスクで、金をベースに、ラピスラズリ、トルコ石などが使われている。
ラピスラズリの色は濃く、濁りのない深い青をしている。金にも劣らない存在感である。
このラピスの印象が目に焼き付き、元々買うつもりは無かったのだが、ついつい手を出してしまったのが写真10のスカラベ。
やはり色が濃く、いい記念品となった。
写真9 ツタンカーメンの黄金のマスク
スカラベとは、「糞転がし」のことで、なぜか再生の神になっている。
なぜ再生かと言うと、スカラベは糞を丸め、そこに卵を生む。
卵から孵った幼虫は糞を食べながら成長し、遂に成虫となって丸い糞から出てくるのである。
これを古代エジプト人は、「太陽から再生する者」に見立てたのである。
糞に「太陽」を感じ、そこから出てくる糞転がしに「再生」を見るなんて、エジプト人は詩人である。
写真10 ラピス・ラズリのスカラベ
写真11,12はツタンカーメンの副葬品。
エジプト独特のデザインに、トルコ石やラピスラズリをたくさん使った豪華な品である。
私も一つ欲しいものだが、手に入る物でもない。
エジプト土産で是非ゲットしたいのは、金の「カルトゥーシュ」。
王の墳墓に描かれているヒエログリフの中に丸く囲まれた文字がある。これがカルトゥーシュである。
中に書かれているのは王の名で、写真5の中に見ることができる。
フランスの言語学者シャンポリオンが、カルトゥーシュに書かれた王の名前を手がかりにヒエログリフを解読した話は有名だ。
カイロの町を歩くと金製品を売っている店が目に付くが、必ずカルトゥーシュを置いているだろう。
カルトゥーシュに刻んでもらうのは、もちろん名前。ローマ字で専用の紙に名前を書くと、ヒエログリフで刻んでくれる。
自分の名前でもいいだろうし、プレゼントなら相手の名前を刻んでもらう。
私も欲しかったのだが、さすがに金は高く、手を出す気にならなかった。(銀製もある)
写真11 ツタンカーメンの副葬品(金、ラピス、トルコ石、紅玉石)
写真12 トルコ石の首飾り
写真13 トルコ石
ついつい買ってしまったのは、ラピスだけではない。写真13のトルコ石も買ってしまった。
エジプト旅行は、始めにも言ったように純粋に観光目的だったのだが、石づくしの旅になってしまった。
旅行前の意に反して、お土産は石ばかり。
ある意味、トホホである。
でも、エジプトはまた行ってみたい。
ピラミッドパワーにヒエログリフパワー。皆さんにも絶対お勧めの地である。ぜひ一度訪れてみていただきたい。
完