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「いわき市における風の流れ」


このレポートは福島県立湯本高等学校地学部が調査・研究を行い、結果をまとめた
1994年発表「いわき市における大気汚染と森林破壊に関する研究」
1995年発表「いわき市における大気汚染と森林の衰退」の一部を抜粋し、加筆・訂正したものです。

T.はじめに
 いわきの大気汚染や植物への影響を調べると、地形に沿った変化をしている場合が多い。
 これは、地形やその周りを流れる風が、大気汚染やその結果として現れる植物への分布が地形や風の影響を受けている結果と考えることができる。
 そこで、いわき市における風の流れを、立体模型と簡易風洞実験などを用いて調査したので、その結果を示す。

U.小名浜での卓越風向
 第1図は,1993年4月から1994年3月までの小名浜測候所のデータをもとにして作成した小名浜での卓越風向を示したものである。
 小名浜では,南風・北東風・北西風が卓越している事がわかる。
 特に南と東よりの卓越風は,市街地や工業地域の汚染物質を内陸に輸送して,酸性雨や土壌pHの空間分布に影響を与えていることが推測される。
 いわき市の風の流れ
V.簡易風洞実験による汚染物質の流れ
 小名浜のデータから、いわき市でどの方向から風が吹くのか明らかになったが、いわき市の各地区での風の流れを捉えることはできない。そこで、立体模型と簡易風洞実験を行い、風による汚染質の流れを見る実験を行った。
 1.実験方法
 風の流れを見るために、いわき市の立体模型とドライアイスの煙を用いる簡易風洞実験を行った。
 いわき市の立体模型は工作用紙と紙粘土で作成した。模型の大きさは直径約40cmの円形で,縮尺が10万分の1,垂直方向は150倍に拡大してある。
 実験には層流(風速一定で乱れのない流れ)が必要であるが,ドライアイスからでる煙は空気よりも重く,一定傾斜のある面上では層流を作り出す事が可能である。実験は第2図のようにして行った。
 簡易風洞実験
 2.結果

 第3図−a,b,c,d は、実験によって確かめられた東、西、南、北時のそれぞれの風の流れである。 第3図−aは東風の場合の風の流れである。
 平付近の風は水石山などの山体にぶつかり,小川,好間,遠野方面へと抜ける。平の市街地の汚染質はこの東風によって,小川や遠野などの谷状地形の地域に入り込むことが分かる。
 また、第3図−cは南風が吹いているときのいわき市内の風の流れである。
 勿来付近へ入る風は山にぶつかり西向きとなり,遠野方面へ向かう。また,小名浜を通る風は北上し,小川方面へ入り込むことがわかった。
 すなわち,小名浜,勿来付近に立地する工場からの排煙は,南風によって内陸へ移流し,特に谷状地形の部分が風の通り道になっているために奥まで入り込む。
 また,風は二ツ箭山や湯の岳にぶつかりよどむために,山の南側の谷の部分に汚染質が蓄積することがわかった。

いわき市の卓越風向

W.おわりに
 これまで調査してきた、地衣類の分布、酸性雨のpH分布、土壌pHや森林への影響は、いわき市特有の地形や風向の影響を大きく受けていると考えられる。
 この風向調査の結果を基に、相互の関係を考察していく必要があるだろう。