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「いわき市における酸性雨の実態」
このレポートは福島県立湯本高等学校地学部が調査・研究を行い、結果をまとめた
1994年発表「いわき市における大気汚染と森林破壊に関する研究」
1995年発表「いわき市における大気汚染と森林の衰退」の一部を抜粋し、加筆・訂正したものです。
T.はじめに
近年,ヨーロッパや北アメリカで森林の衰退が大きな問題となっており、日本でも各地で樹木の立ち枯れ被害が報告されている。
関口(1985)は、関東地方のスギの衰退について目視で観察を行い、東京から関東北西部の地域にかけて衰退が進んでいることを明らかにした。さらに、その原因として酸性雨,酸性粒子状物質やオキシダント等の酸性・酸化性ガスを挙げている。
地理的な条件から、いわき市では小名浜に臨海工業地帯,植田に勿来共同火力発電所が位置し、勿来にも工場が多い。さらに、平・小名浜などの市街地や主要幹線道路においては交通量も多く、これらに伴って大気汚染や酸性雨による森林破壊などの影響が心配される。
そこで,我々はいわき市における実態を把握するために酸性雨の調査を行った。
U.降雨pHの観測
はじめに、いわき市内の酸性雨の現状を把握するために降雨pHの観測を行った。
1.観測方法
観測は湯本高校屋上に定点観測点を置き、ポリエチレンビンにロートを取り付けた簡易採雨器を設置した。
採雨は一降雨全量採取法で行った。
2.結果
第1図 いわき市における雨水pHの経年変化
第1図に1993年4月から1995年8月までの測定結果を示す。
測定結果を見ると、いわき市内に降っている降雨のpHは一定ではなくpH3から7の間で変動している。
また、春から夏の時期にはpHが低く、秋から冬にかけてはpHが高いという規則正しい季節変化があることがわかった。
さらに、1993年の冷夏と1994年,1995年の猛暑になった夏を比べると冷夏時のほうが低いpHの雨が降っている事、1993〜1994年の暖冬と1994〜1995年の冬を比べると暖冬のほうが低いpHの雨が降っている事がわかる。
平均pH5.1という低pHの雨が降っていることから、いわき市内でも少なからず樹木に影響を与えていると推測される。
V.酸性雨の空間分布調査
次に、雨水pHの空間分布を調査することにした。
1.調査方法
いわき市内に28ヶ所の定点観測点を置き,ポリエチレンビンにロートを取り付けた簡易採雨器をそれぞれ設置した。
採雨は一降雨全量採取法で行った。
2.結果
第2図 1994年6月14日のpH空間分布
第3図 降雨6時間前から終了時までの気象要素の変化
第2図には1994年6月14日のpHの空間分布を示す。
平などの市街地や小名浜・勿来の工場地帯付近ではpH5.5以下の酸性雨が降っているのに対して,郊外ではpH6.5以上の雨が降っており,いわき市という比較的狭い範囲でも雨のpHに大きな差がある事がわかった。
第3図には降雨6時間前から終了時までの気象要素の変化を示した。
降雨時の風はごく弱い南風で汚染質はほとんど移流されていないと考えられる。
すなわち,低pH域はそのままそこが汚染源に近い事を示すと考えられ,やはり小名浜・勿来付近と平付近が汚染源になっている事がわかった。
第4図 1994年 6月25日降雨のpH空間分布
第5図 降雨6時間前から終了時までの気象要素の変化
次に,第4図に1994年 6月25日降雨のpHの空間分布をしめす。
低pH域は小川や遠野といった谷状地形の地域に入り込むような分布になっている。
第5図に気象要素の変化を示す。
降り始めは南の風が吹いており,強く降り出した7時頃からは北東風になっている。
これらのことから,いわき市における主な汚染源は平などの市街地や小名浜・勿来の工場地帯であり、これら汚染源からの汚染質は南〜東の風によって移流され,汚染源付近だけでなく谷状の地形になっている地域にも低pHの雨を降らせたと考えられる。
このように,いわき市の酸性雨pHの空間分布は,その時の風の流れに大きく左右されている。
W 終わりに
いわき市に降る雨のpHを観測すると、その分布は地形、そして風向きの影響を大きく受けていることがわかる。
この酸性雨は、土地のpHや植物へも影響を与えていると考えられ、さらに人体への影響も心配される。
今後も酸性雨やその影響について、注意深く観察していく必要があると思われる。
いわき市内の風の流れについては、「いわき市における風の流れ」を参照ください。